一生インフルエンザにかからない体質の作り方
和書にありがちな「〜かもしれません」「色々試して自分に最適な方法を見つけましょう」等というふざけた記述はありません。「食後にサプリを採れ」のように指示がシンプルで判り易いです。
眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
イタリアはヴェネト州のある一族に患者が集中する「致死性家族性不眠症(FFI)」。身体の痙攣などの不随意運動と痴呆に似た症状を持ち、患者は眠ることができないまま壮絶な苦しみのうちに死に至るという、考えるだに恐ろしい残酷な病である。自らも原因不明の疾患を抱える筆者は、この奇病に冒された一族の来歴を軸に、類似した症状を持つ、羊や牛を襲ったスクレイピーやBSE、ニューギニアの部族に蔓延したクールー病といった疾患を追い、その原因とされるプリオンの発見に至るまでの歴史をミステリー仕立てで紹介する。
核酸を持たない単なる分子でしかなく、単なる分子であるがゆえに、生命体としての生き残りというセオリーにも当てはまらず、その目的がさっぱりわからないにもかかわらず、感染し、遺伝するという、感染症の従来の概念を覆す謎に満ちたプリオン。科学者たちにとって格好の研究対象であったようで、本書は彼らの野心や功名心をむき出しにした研究レースに触れ、価値判断に影響を受けざるを得ない「科学」の迷走ぶりを描き出している。
副題の「食人の痕跡〜」であるが、人類が、プリオン病に罹患しにくいとされる遺伝子コードを持つに至った理由を類推していく中で、過去に食人によるプリオン病の蔓延があったのではないかということを指しているが、恐ろしいことに我々日本人のほとんどはその遺伝子コードを持ち合わせていないそうだ。我が国でもアメリカでBSEに罹患した牛が発見された際、輸入の全面禁止と、全頭検査を条件とした輸入再開と慌しかったが、政府が対応を急いだ背景に日本人の遺伝子特性があったとは背筋の凍る話ではないか。
難解な科学用語や理論を平易に解説し、なおかつ、脚色が殆どないにもかかわらず、冷静な筆致で小説としても読ませる内容となっており、本書を一流のメディカル・ミステリーたらしめている。一読をお勧めしたい。
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